――東京にいるあいだはこの仕事ずっと続けるの?
「うん。でもあと一、二年ぐらいだと思う。体力的にもだし、もう精神的につらい。(ホストの)彼にも悪いと思うし。なんか二十九歳とかで風俗をやってる人を見ると泣けてくる(笑)。おしりとか垂れてシャワーとかはいりすぎて水をはじかない老体、みたいな。なんていうのかなぁ、お金をもらう限りはみにくい体を人に見せたくない」
ドキ、私はもうみにくい体の域にさしかかっているんだけど。ま、年を重ねたなりの魅力もあるのだろうから気にしない気にしない。
ここでまたしても私は家族の話をふった。しつこく食い下がる私に彼女は観念したのだろうか。吐き出すようにいっきにしゃべった。
「あの、セコムとかあるじゃないですか? うちの玄関にもそういう監視カメラをつけてて明らかに家にいて明らかに私だって気づいてるはずなのに、出てくれなったことがあったんですよ」
・・・・・・そういうことだったのか。聞き出した満足感は一瞬で、自分のしていることの責任の重さに気づかされた。と、同時に、彼氏(男性)に依存しているように見えたのは、こういった背景の反動だったのかという想いも浮かんできた。でも、なにも言えなかった。
――しばらく東京にいる予定?
「んー、でもできればいずれは北海道に帰ろうと思う。あそこはすごくいいところだと思う(笑)。東京は人が多いし、ぶつかってもしらんぷりしてるし。
ホストの彼とできるなら結婚したい。彼はカッコ悪いんだけど運送屋さんをやりたいって言ってる」
――あ、そうなの? うちの実家も運送屋やってたよ
「あ、そうなんですか!?」
――でもつぶれたけど
「ははは(笑)」
内容はともあれ、はじけるような笑顔だった。たぶん私が初めて見る彼女の笑顔だった。
このあと彼女は歌舞伎町へ業務用のローションを買いに行った。
とても丁寧なおじぎを残して。
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