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 法律Q&A 第3回(2) Date: 2004-02-02 (Mon) 
■質問5≪以下の質問は弊社の取引先社長からです。≫

僕は、新宿2丁目周辺において中古ビデオを販売するお店を開いています。下記の事件を知り、毎日不安で睡眠もままなりません。
当店ではお客様から買取・下取りしたゲイ向け作品を主アイテムとして販売しています。
ゲイ雑誌での中古・レンタル・海賊版ビデオなどを糾弾するキャンペーンを知っていますが、この地域で新規にメーカーと取引が出来ないので、新作を販売することが出来ません。
先生、なにか方法はないでしょうか?(東京都豊島区/ビデオソフト販売店代表/29歳)

▼回答5
 これに関しては野望の帝国上の回答よりも直接の回答のほうがいいと思うのですが。メールでのやり取りが希望であれば直接社長さんとメールで相談に乗ります。その上でオフレコな話も含めたアドバイスをしようと思います。裁判なんかも絡んでいますのであんまりやると弁護士法違反になるかもしれませんので。それに、メールだとやはりお互いのやり取りの相違点などが出てくる危険は避けられません。

 と断った上で、法的にどうこうは残念ながらどうにもならないと思います。新規にメーカーが取引するかどうかはそのメーカーの自由だからです。しかし、この判決を見る限りでは中古販売している側が裁判に勝っているわけですから今までどおり販売を継続して問題はないのではないでしょうか。
 今後どうなるかは確かにわかりませんが、現状ではこのようになっています。
 なお、中古品の売買に関しては古物商の許可の取得が必要です。忘れないようお気をつけください。
 ここから先は法的にどうこうというよりも、相談者を精神的に安心させてあげる、経営的なアドバイスをしてあげる、他の仕入先を見つけるにはどうしたらいいか教えてあげる、そんな方向で力になってあげるしかないでしょう。私でよければ個別相談に乗りますので直接連絡ください。 
平成14年1月31日 中古アダルトビデオの販売事件

東京地裁/判決・請求棄却(控訴)

 アダルトビデオを製作販売している(株)橋本コーポレーションら10社が、顧客から買取または下取りした中古ゲイ向けビデオを販売している(株)寿エンタープライズ(東京都台東区上野・上野駅前の昭和通り沿いにある“黒猫館”という、歴史の古いアダルトショップ〜ビルの壁面全部に一時期ホモビデオ買取の大弾幕を掲げていた)に対し、著作権(※頒布権)侵害を理由に各200万円の損害賠償額を求めた訴訟で、東京地裁は原告側10社の請求を棄却した。黒猫館は、ゲイ専用の大人のオモチャ屋ではないが、この地域は、ゲイ向けのサウナ、映画館、スナック、ビデオ屋などが犇めく、古くからゲイが集まる地域であり、この不景気からゲイ向けのビジネスを拡大したかったものと思われる。
 アダルトビデオは「映画の著作物」で、頒布権の対象となるか否かが争われたが、判決は当該ビデオは一般劇場用映画のビデオと異なるソフトであるから頒布権は消尽し、効力は及ばないとした。
 尚、上記有メーカー10社を初めとする、ゲイ向けビデオメーカーが現在も“バディ”などのゲイ雑誌において、中古・レンタル・海賊版ビデオに反対する共同キャンペーンを繰り広げている。
 ゲイ向けビデオは、原告のメーカーと系列の販売店、決められた代理店や通販、そして作品を宣伝するゲイ雑誌が密接な関係で市場を押さえているため、全くの新規で、メーカー、販売店、雑誌などを創業しても営業活動殆ど不可能である。そんな業界に、被告である、黒猫館及び(株)寿エンタープライズが、何故このような前代未聞の芸当を始めたかというと、原告の殆どのメーカーが、上記のような理由から被告へ新作を卸さなかったことと被告がゲイ専門のアダルトショップではなかったことが考えられる。
 原告たちは、被告のこのような攻撃的な行為を到底無視することは出来なかったと思われるが、結局、敗れた。しかし、このまま終わりそうにない。

※頒布権とは、ビデオソフトを販売したり、譲渡したり、貸したりする権利。セルビデオを購入して、第三者へレンタルすることは、たとえそれを無料で貸したとしても頒布権の侵害になる。買取・下取りしたものを中古で販売する場合も同様である。

判例全文
【事件名】中古アダルトビデオの販売事件
【年月日】平成14年1月31日
 東京地裁 平成12年(ワ)第15070号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結の日 平成13年11月1日)

判決
原告 株式会社橋本コーポレーション
原告 株式会社ジョイナック
原告 有限会社アキ総合企画
原告 株式会社海燕書房
原告 有限会社ビープロダクト
原告 有限会社ダブルアックス
原告 有限会社ワークビジネス社
原告 株式会社アイダックス
原告 有限会社ドルチェ・ヴィータ
原告 YBスポーツことA
原告ら10名訴訟代理人弁護士 石黒康

被告 株式会社寿エンタープライズ
被告 B

主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由
第1 原告らの請求
1 被告株式会社寿エンタープライズ(以下「被告会社」という。)は、原告らが製作販売した別紙ビデオソフト販売一覧表(以下「別紙一覧表」という。)記載の各ビデオソフトの中古ビデオソフトを販売してはならない。

2 被告らは連帯して、原告らそれぞれに対して各200万円及びこれに対する平成12年8月13日(被告両名への訴状送達がされた日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3 仮執行宣言
第2 事案の概要
 本件は、別紙一覧表記載の各ビデオソフト(以下「本件各ビデオソフト」という。)を製作販売している原告らが、本件各ビデオソフトは映画の著作物であり、原告らはこれについて頒布権を有する旨主張して、顧客から本件各ビデオソフトを購入しその中古品を販売する被告会社に対し、その販売の差止めを求めるとともに、被告会社及びその代表取締役である被告B(以下「被告B」という。)に対し、著作権(頒布権)侵害を理由とする損害賠償を求めている事案である。

1 前提となる事実(当事者間に争いのない事実及び弁論の全趣旨により認められる事実)
(1) 原告らは、ビデオソフトの製作販売を業とする会社又は個人であり、本件各ビデオソフトを製作し販売している。
(2) 被告会社は、中古ビデオソフトの販売を業とする株式会社であり、被告Bは、被告会社の代表取締役である。
(3) 被告会社は、遅くとも平成11年ころから、原告らの許諾の下で小売店において販売されている本件各ビデオソフトを適法に購入した顧客から、これらのビデオソフトを買い入れた上、中古品として販売している。

2 本件の争点
(1) 本件各ビデオソフトが著作権法上の「映画の著作物」に当たり、著作権法26条1項の「複製物」として頒布権の対象となるか。
(2) 本件各ビデオソフトが著作権者又はその許諾を受けた者によりいったん適法に譲渡されれば、当該ビデオソフトについては頒布権が消尽し、その後の譲渡等の行為には頒布権が及ばないか。
(3) 本件各ビデオソフトはわいせつ物であり、公序良俗に反する物として著作権法による保護の対象にならないか。
(4) 原告らの損害の額

3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1) について
(原告らの主張)
 本件各ビデオソフトのようなビデオ映像物は、著作権法10条1項7号にいう「映画の著作物」に該当する。
映画の著作物については、著作権法26条1項においてその複製物の頒布権が明文で規定されているが、これによればビデオ映像物についても、その複製物についての頒布権が著作者にあることは明確である。したがって、本件各ビデオソフトについて、原告らには頒布権が認められるというべきである。
 被告らは、後記のとおり、著作権法26条1項の「複製物」の文言を限定して解釈すべきであると主張する。しかし、法律上明文で認められている頒布権という権利を制限するには、公共の福祉、公序良俗、条理といった理由が考えられるところ、その場合であっても権利の制限に当たっては極めて慎重な判断が必要であり、しかも具体的な判断基準が示されていることが不可欠である。しかし、後記裁判例の掲げる「大量に複製」されるかどうか、「投下資本を回収すべく予定」されているかどうか、という基準は極めて不明確であり、このような不明確な基準に基づいて著作者の権利を制限することは許されない。  
(被告らの主張)
 本件各ビデオソフトは、映画の著作物に該当しない。
 仮に、映画の著作物に該当するとしても、著作権法26条1項にいう「複製物」とは、配給制度による流通の形態が採られている映画の著作物の複製物、及び、同条の立法趣旨からみてこれと同等の保護に値する複製物、すなわち、一つ一つの複製物が多数の者の視聴に供される場合の複製物、言い換えると、少数の複製物のみが製造されて、著作者がそれら少量の複製物の流通の支配を通じて投下資本を回収することが予定されているものを指すものであり、大量の複製物が製造されて、個々の複製物が少数の者によってしか視聴されないものは含まれないと、限定して解すべきである(東京高裁平成13年3月27日判決・判例時報1747号60頁参照)。

 本件各ビデオソフトは、大量の複製物が製作され、一つ一つの複製物は少数の者によって個人的に視聴されるにすぎない。すなわち、映画館等で大観衆の前で上映されることは最初から予定されていない性質のものである。
 したがって、小売店において一般消費者に販売されている本件各ビデオソフトは、著作権法26条1項の「複製物」には該当せず、頒布権の対象にならない。

(2) 争点(2) について
(被告らの主張)
 仮に、本件各ビデオソフトにつき原告らに頒布権が認められるとしても、本件各ビデオソフトは、小売店を経由して最終ユーザーである一般の消費者に譲渡され、いったん市場において適法に拡布されたものということができるから、権利消尽の原則という一般的原則により、原告らは、少なくとも最終ユーザーに譲渡された後の譲渡に対しては、頒布権の効力を及ぼすことができないというべきである(大阪高裁平成13年3月29日判決・判例時報1749号3頁参照)。

 被告会社は、前記1(3) のとおり本件各ビデオソフトを最終ユーザーから購入して販売しているにすぎないから、頒布権の侵害に基づく原告らの本訴請求は理由がない。

(原告らの主張)
 被告らは、前記大阪高裁の裁判例を引用して、原告らの頒布権は消尽した旨主張する。しかし、同判決が権利消尽の根拠とするところは、複製物が大量に製造されて流通に回ること、その流通のすべてに製作者にコントロール権を与えることは現実的でないことにあるように思われるが、「大量に複製」されたかどうかについては、基準が明確でない。
 また、前記判決は、映画の著作物の複製物の頒布権は第一頒布にのみ適用されるとするが、著作権法26条1項にはそのような限定はない上、実質的にみても、頒布権の及ぶ範囲を第一頒布に限定すると、購入者が購入した複製品を家庭においてダビング(複製)した上で購入物を被告会社のような中古品販売業者に持ち込んでいるという実情に照らせば、結果として第一頒布権すら事実上保護されなくなるという結果を招くことになる。

 本件各ビデオソフトは、いわゆるホモセクシャル(男性同性愛)ものであり、その市場は極めて限定され、販売ルートも限定されている。需要者が少ないことから、本件各ビデオソフトの製作本数も1タイトルにつき通常は数百本、多くても千本程度であり、大量に複製されたとは到底いえない数量である。
 したがって、仮に、原則として権利の消尽を認めるという立場に立ったとしても、本件各ビデオソフトについては例外的に頒布権は消尽していないというべきである。

(3) 争点(3) について
(被告らの主張)
 本件各ビデオソフトは、いずれもホモセクシャル(男性同性愛)ものであって、その内容からして文化的所産とはほど遠く、公の秩序、善良の風俗に反するわいせつ物である。
 したがって、仮に本件各ビデオソフトが映画の著作物に該当するとしても、著作権法による保護に値せず、同法の保護の対象とならないものというべきである。

(原告らの主張)
 本件各ビデオソフトはいわゆるホモセクシャル(男性同性愛)ものであるが、近時の我が国における文化、風俗の状況として同性愛は容認されているといえるから、これはわいせつ物には当たらず、法的保護に値するというべきである。なお、原告らは日本ビデオ協会グループ(JVGA)という業界団体を結成し、製作するビデオ作品がわいせつ物として刑事摘発を受けないように自主規制を行っており、現に、本件各ビデオソフトの中にはわいせつ物として摘発されたものは一つもない。
 被告らの態度は、本件各ビデオソフトをわいせつ物であると主張する一方で、自らその中古品の販売を継続しているものであり、矛盾している。

(4) 争点(4) について
(原告らの主張)
 被告会社が、本件各ビデオソフトを購入し、販売したことによって得た利益の額は別紙一覧表に記載のとおりであり、原告ごとに被告会社による販売数及びその利益の額を示すと次のとおりである。
〔原告名〕 〔販売数〕 〔利益額〕
原告株式会社橋本コーポレーション 77本 23万9340円
原告株式会社ジョイナック 186本 92万6600円
原告有限会社アキ総合企画 68本 12万7000円
原告株式会社海燕書房 227本 122万6300円
原告有限会社ビープロダクト 174本 72万2970円
原告有限会社ダブルアックス 94本 52万6800円
原告有限会社ワークビジネス社 122本 65万0780円
原告株式会社アイダックス 29本 8万3810円
原告有限会社ドルチェ・ヴィータ 69本 30万3300円
原告YBスポーツことA 42本 13万5740円

 被告Bは被告会社の代表取締役であり、共同不法行為者として被告会社と連帯して責任を負うから、各原告はそれぞれ、著作権侵害に基づく損害賠償として、被告らに対し、上記利益額と慰謝料200万円を合計した金額のうち200万円及びこれに対する平成12年8月13日(被告両名への訴状送達がされた日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を連帯して支払うことを求める。

(被告らの主張)
 原告ら主張の本件各ビデオソフトの仕入価格、販売価格はいずれも否認する。これらは、個々のビデオソフトにより異なり、一律に決まっているわけではない。 
 また、本件各ビデオソフトに含まれる個々のビデオソフトの販売数については、対象となる作品数が多すぎて、いまだ確認できていない。
 その余の主張については、否認し、争う。

第3 当裁判所の判断
1 争点(1) について
(1) 著作権法における「映画の著作物」の意義及び本件各ビデオソフトの「映画の著作物」該当性
ア 著作権法は、「映画の著作物」(10条1項7号)に関して、明確な定義規定を置いていないので、これが具体的にどのようなものを指すかは、「映画の著作物」に関する同法の規定を総合的に考察して決するほかはないというべきである。
 著作権法上、「映画の著作物」については、著作者の範囲(16条)、著作権の帰属(29条)及び著作権の保護期間(54条)に関する規定が置かれているほか、その利用に関する権利として頒布権(26条)が規定されている。
 頒布権は、複製物の譲渡又は貸与に関する権利として映画の著作物のみについて認められるものであり、公衆への譲渡又は貸与のみならず、公衆への提示を目的として複製物の譲渡又は貸与を行うことも、これに含まれるものとされている(2条1項19号)。

イ 著作権法が映画の著作物のみに上記のような頒布権を認めた趣旨につき考察するに、この規定は、ベルヌ条約ブラッセル改正規定が映画の著作物について頒布権を認めていたことから、条約上の義務履行として設けられたものであるが、実質的には、劇場用映画における次のような特殊性を考慮したことによるものである。
 劇場用映画については、映画製作会社・映画配給会社は、プリント・フィルムを映画館経営者に貸し渡すにとどめ、上映期間が終わったら貸し渡したプリント・フィルムを返却させたり、映画製作会社・映画配給会社の指示の下に別の映画館に引き継がせるなどの方法を通じてプリント・フィルムの流通をコントロールするという、いわゆる配給制度を通じて、興行収益を見越して上映の地域的な範囲・順序や期間などを戦略的に決定することで、投下した資本の回収を行ってきたという社会的な実態が存在した。著作権法は、劇場用映画の上記のような利用形態、個々の複製物が持つ経済的価値及びその流通形態の特殊性を考慮し、映画製作者が劇場用映画の製作に投下した資本の回収を図る利益を保護する上で、複製物の流通全般をコントロールし得る地位を保障することが適当であり、かつ、これを映画製作会社・映画配給会社と映画館経営者の間の債権契約のみにゆだねることでは不十分であって、著作権者に排他性のある物権的な権利を付与することが相当であり、他方、上記流通形態からすれば、このような権利を認めたとしても、商品の流通を不当に阻害することにはならないとの立法政策的な判断から、映画の著作物のみについて、前記のような内容の頒布権を認めたものというべきであり、それ以外には映画の著作物のみに頒布権を認めるべき実質的根拠を見出すことはできない。

ウ ところで、「映画の著作物」たり得るためには、著作権法の定める著作物としての基本的要件を満たすこと、すなわち「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(2条1項)であることを要する。

 劇場用映画が著作物性の要件を満たすのは、カメラ・ワークの工夫、モンタージュあるいはカット等の手法、フィルム編集などの知的な活動を通じて、その構図等において創作的工夫に係る影像を作成し、これを選択して一定の順序で組み合わせ、音声をシンクロナイズすることによって、映画フィルムが作成され、これを上映することによって一定の思想又は感情の表現としての連続した影像及びこれに伴う音声がもたらされるためである。

 上記のとおり、劇場用映画においては、思想・感情の創作的表現は、フィルム編集等の行為を通じて一定の内容の影像を選択し、これを一定の順序で組み合わせることにより行われるものであり、複製物たるプリント・フィルムを上映することにより常に同一内容の連続影像がもたらされることで、広範な地域における多数の映画館での上映を通じて膨大な数の観客に対して、同一の思想・感情の表現を伝達することが可能となっている。すなわち、複製物たるプリント・フィルムにより同一内容の連続影像が常に再現可能であることが、劇場用映画フィルムの配給制度の前提になっているものということができる。そして、前記のとおり、「映画の著作物」に関する著作権法の規定が、いずれも、劇場用映画の利用について映画製作者による配給制度を通じての円滑な権利行使を可能とすることを企図して設けられたものであることを併せ考えると、著作権法は、多数の映画館での上映を通じて多数の観客に対して思想・感情の表現としての同一の視聴覚的効果を与えることが可能であるという、劇場用映画の特徴を備えた著作物を、「映画の著作物」として想定しているものと解するのが相当である。

エ そうすると、著作権法上の「映画の著作物」といい得るためには、@当該著作物が、一定の内容の影像を選択し、これを一定の順序で組み合わせることにより思想・感情を表現するものであって、A当該著作物ないしその複製物を用いることにより、同一の連続影像が常に再現される(常に同一内容の影像が同一の順序によりもたらされる)ものであることを、要するというべきである。
 これを本件についてみるに、証拠(乙1〜3)及び弁論の全趣旨によれば、本件各ビデオソフトは、劇場における上映を前提とするものではなく、複製物が小売店において一般消費者に対して販売され、これを購入者が家庭においてビデオ機器等を用いて再生してその映像等を鑑賞するというものであるが、収録されている内容は、一定の内容の影像を一定の順序で組み合わせたものであるという点で劇場用映画と同一のものであり、いずれも上記@及びAの要件を満たすことが認められる。したがって、本件各ビデオソフトは、いずれも「映画の著作物」に該当するというべきである。

(2) 頒布権(著作権法26条)の有無

ア 著作権法は、映画の著作物について、著作権者が頒布権を専有する旨定めており(26条1項)、映画の著作物の中で頒布権を認めるものとそうでないものとの区別をしていない。そうすると、前記(1) でみたとおり、本件各ビデオソフトが映画の著作物に該当する以上、その著作権者は本件各ビデオソフトについて頒布権を有するものと解するのが相当である。

イ 次に、著作権法26条1項にいう「複製物」とは、複製された物を意味するところ、同法2条1項15号によれば、「複製」とは「印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製すること」と定義されているから、この定義による限り、小売店において一般消費者に対して販売されている本件各ビデオソフトが本件各ビデオソフトの原作品を「複製」することによって得られたものであることは明らかである。他方、著作権法26条1項は、文言上、「複製物」について格別の制限を設けていない。したがって、本件各ビデオソフトには、著作権者の頒布権が及ぶものというべきである。

ウ この点について、被告らは、著作権法26条1項にいう「複製物」とは、配給制度による流通の形態が採られている映画の著作物の複製物、及び、同条の立法趣旨からみてこれと同等の保護に値する複製物をいうところ、本件各ビデオソフトは、大量の複製物が製造されて、個々の複製物が少数の者によってしか視聴されない性質のものであるから、これには当たらない旨主張する。
 前記(1) でみたように、著作権法26条は、劇場用映画の配給制度という取引の実態を踏まえて、映画の著作物について頒布権という特別の支分権を認める趣旨で設けられた規定であるところ、前記のとおり、本件各ビデオソフトは各作品とも通常は数百本、多くて千本程度制作され、原告らから卸売業者ないし小売店に販売された後、小売店において顧客がこれを購入するものであることが認められるから、その流通、取引形態は、上記劇場用映画の配給制度とは全く異なるものということができる。しかしながら、本件各ビデオソフトが映画の著作物に該当する以上、著作権法26条が適用され、その原作品の複製物たる本件各ビデオソフトが頒布権の対象となるのは当然であって、前記のような事情は、本件各ビデオソフトにつきこれと異なる解釈をする理由とはならない。
 以上のとおり、被告らの前記主張は理由がなく、本件各ビデオソフトは頒布権の対象となるというべきである。

2 争点(2) について

(1) 著作権法と消尽の原則

 特許権等の工業所有権に権利消尽の原則が適用されることは、一般に承認されているが(最高裁判所平成7年(オ)第1988号同9年7月1日第3小法廷判決・民集51巻6号2299頁参照)、著作権法の領域において権利消尽の原則が適用されるか、その適用があるとして例外的に消尽が認められない場合があるか、という点については、説が分かれている。
 そこで検討するに、@ 著作権法による著作物の保護は、社会公共の利益との調和の下において実現されなければならないものであるところ、A 一般に譲渡においては、譲渡人は目的物について有するすべての権利を譲受人に移転し、譲受人は譲渡人が有していたすべての権利を取得するものであり、著作物又はその複製物が市場での流通に置かれる場合にも、譲受人が目的物につき著作権者の権利行使を離れて自由にこれを利用し再譲渡などをすることができる権利を取得することを前提として、取引行為が行われるものであって、仮に、著作物又はその複製物について譲渡等を行う都度著作権者の許諾を要するということになれば、市場における商品の自由な流通が阻害され、著作物又はその複製物の円滑な流通が妨げられて、かえって著作権者の利益を害する結果を来し、ひいては「著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与する」(著作権法1条参照)という著作権法の目的に反することになり、B 他方、著作権者は、著作物又はその複製物を自ら譲渡するに当たって著作物の利用の対価を含めた譲渡代金を取得し、著作物の利用を許諾するに当たって使用料を取得することができるのであるから、著作権者が著作物創作の対価を確保する機会は保障されているものということができ、したがって、著作権者又はその許諾を得た者から譲渡された著作物又はその複製物について、著作権者がその後の流通過程において二重に利得を得ることを認める必要性は存在しない。
 以上によれば、著作物自体又はその複製物につき取引の行われる場合において、自由な商品取引という社会公共の利益と著作者の利益との調整の結果として、一般的原則としての権利消尽の原則が適用されると解するのが相当である。
 平成11年法律第77号による著作権法の改正により新たに設けられた26条の2の規定は、映画の著作物を除く著作物全般について、著作権者に「その著作物をその原作品又は複製物の譲渡により公衆に提供する権利を専有する。」として、譲渡権を認めるとともに(1項)、この譲渡権は、譲渡権を有する者により譲渡された複製物等には及ばないことを明記し(2項)、譲渡権が第一譲渡によって消尽することを明らかにしているが、これは前記のような一般的原則としての権利消尽の原則を確認的に明文化したものというべきである。

(2) 頒布権と権利消尽の原則

ア 前記(1) のとおり、権利消尽の原則が認められるのは、社会公共の利益との調和の下において著作者の権利の保護を図るという著作権法の内在的制約の帰結であって、権利消尽の原則は、同法における個別の明文の規定を要することなく、当然に適用される一般的原則というべきであるところ、頒布権について権利消尽の原則が適用されるかどうかについては、頒布権の規定が設けられた経緯との関係で、なお検討を要するところである。

イ 前記1(1) でみたとおり、著作権法26条の規定は、映画の著作物について頒布権を認めていたベルヌ条約ブラッセル改正規定に対応する必要があったことから、昭和45年に成立した現行の著作権法において導入されたものであるが、その当時、我が国の社会的事実として、前記のような劇場用映画の配給制度が存在しており、このような取引実態を前提として、映画の著作物に頒布権を認めても取引上の混乱が少ないと考えられた結果、上記の立法がされたものと認められる。
 また、著作権法2条1項19号は、「頒布」の定義として、「有償であるか又は無償であるかを問わず、複製物を公衆に譲渡し、又は貸与することをいい、映画の著作物又は映画の著作物において複製されている著作物にあつては、これらの著作物を公衆に提示することを目的として当該映画の著作物の複製物を譲渡し、又は貸与することを含むものとする。」と規定し、映画の著作物を含む著作物全般に関する「頒布」概念としてのいわゆる前段頒布と映画の著作物だけに関する「頒布」概念としてのいわゆる後段頒布とを定めている。

ウ ベルヌ条約に定められた頒布権が第一譲渡後の消尽を否定するものであることをうかがわせる資料はなく、また各国の立法例をみると、多くの国では、映画の著作権を含む著作権全般について、頒布権を認める場合には、第一譲渡ないし公衆への最初の提供によって消尽するという法制が採られている。

エ 前記の配給制度の下における取引形態(後段頒布)は、取引の態様に照らして権利消尽の原則が適用されないものとしても商品の自由な流通を阻害することにはならず、また、配給制度を通じて投下資本の回収を図るためには映画の著作物の著作権者がプリント・フィルムの流通全般をコントロールできるものとする必要があることから、権利消尽の原則の適用されない頒布権を認めるべき一定の合理性が存在するということができる。

オ これらの点を総合すると、著作権法26条所定の頒布権にも、一般原則としての権利消尽の原則は適用されるものであるが、配給制度の下における取引については頒布権に例外的に権利消尽の原則が適用されないと解するのが相当である。
 そうすると、映画の著作物については、配給制度の下における取引形態である後段頒布については権利消尽の原則が適用されないという例外が認められるが、市場において一般消費者に対して複製物を販売する場合のように複製物が公衆に拡布される場合(前段頒布)には、原則どおり第一譲渡により頒布権は消尽し、その後の譲渡に対しては頒布権の効力は及ばないものと解するのが相当である。もっとも、著作物全般について貸与権(著作権法26条の3)の規定が設けられ、適法な第一譲渡により譲渡権が消尽した後においても貸与に対しては著作権者の権利が及ぶものとされていることに照らせば、映画の著作物の複製物が適法に公衆に拡布された場合においても、第一譲渡により消尽するのは頒布権のうち当該複製物の譲渡に係る範囲のみであって、貸与の限度においては第一譲渡後も著作権者の頒布権の対象となるものというべきである。

(3) 本件各ビデオソフトへの権利消尽の原則の適用の有無

 これを本件についてみるに、被告会社は、原告らの許諾の下で小売店において販売されている本件各ビデオソフトを購入した一般の消費者から、これらのビデオソフトを買い入れた上で、中古品として顧客に販売しているものであるから(当事者間に争いがない。)、本件各ビデオソフトは卸売業者・小売店を経由して末端の需要者に譲渡され、いったん市場に適法に拡布されたものということができる。したがって、本件各ビデオソフトについては、前記前段頒布の場合に当たり、権利消尽の原則が適用されるから、被告らによる本件各ビデオソフトの販売に対しては、頒布権の効力は及ばないというべきである。

(4) 原告らの主張について

 原告らは、まず、著作権法26条には頒布権の及ぶ範囲を第一譲渡にのみ限定する文言はない上、実質的にみても、頒布権の効力の及ぶ範囲を第一頒布に限定すると、結果として第一頒布についての権利すら事実上保護されなくなる旨主張する。
 しかし、映画の著作物に関し、劇場用映画の配給制度の存在等に照らし、著作権法26条の定める頒布権の内容について前段頒布と後段頒布とで区別を設けることに合理性のあることは、前示のとおりである。また、原告らの指摘するビデオソフト購入者によるダビング(複製)の問題については、本来そのような複製行為が著作権法の規定する私的利用のための複製(著作権法30条)に該当するかどうかを問題とすべきものであって、権利消尽の原則の適用についての解釈に直ちに結びつくものではない。原告らの主張は、失当である。
 次に、原告らは、本件各ビデオソフトは、いわゆるホモセクシャル(男性同性愛)ものであり、その市場及び販売ルートは限定されている旨主張する。原告らの主張は、権利消尽の原則の例外に当たるかどうかを判断するに当たっては、大量に複製物が販売される一般の映画ビデオないしゲームソフトと需要者の限定されている本件各ビデオソフトとを区別するべきであるとの趣旨と解される。
 なるほど、本件各ビデオソフトは各作品とも通常は数百本、多くて千本程度制作されるにとどまり(弁論の全趣旨)、売上本数が数千万ないし億単位になることもある一般の映画ビデオ等とは販売数量、売上金額について顕著な差があることは否定できない。
 しかし、前記劇場用映画の配給制度との対比においては、複製物の販売により投下資本を回収するという点において大きく異なるものであり、この点は一般の映画ビデオ等の場合と同様である。また、実質的にみても、本件各ビデオソフトの内容上その市場が限定されているというのであれば、原告らとしてはそれに応じた価格を設定することにより投下資本を回収することが可能なのであるから、原告らの主張する事情は、権利消尽の原則の適用を否定すべき理由とはならないというべきである。

3 結論

 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がない。よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 三村量一
 裁判官 和久田道雄
 裁判官 田中孝一 

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