■男はつらいよ!! 墓次郎同業者に間違われる編(4) |
この日はめずらしく商談(それも商談と呼ぶにふさわしい、かっちり目のもの。)があり、きっちりとスーツを身にまとい、磨き上げた靴とまっとうな鞄を持ち、およそ風俗ライターとは縁のない格好で一日を過ごした。ところが、普段着慣れないものに身を包んでいた為、連れの事務所を訪れた際にジャケット、ネクタイ、鞄を半ば放り出すようにしてはぎ取ってドレスダウンしていたのだ。しかも適度にドレスダウンされた今の格好は、目の前にいる兄さんと寸分違わぬもの…
スーツパンツに、長袖の白いシャツ。もちろんノーネクタイでボタンは上の2つがかけられておらず、シャツの袖はだらしなくグルグルと上にまくられており、靴だけが身分不相応の存在感を持ち、輝きを放っている。もちろん手ぶらで、指にはシルバーのリングが2つ装着されており、腕にはきっちりとロレックスの時計(言うまでもないと思うが偽物…)という出で立ち。
「ジーザス!!そりゃ、あんたじゃなくたって勘違いするよ!!」声に出さないツッコミを兄さんと自分に入れ、改めて兄さんと対峙する。風俗店の正装とでも言おうか、一般的に着られている服を上手にというか、やや斜め下に向かってドレスダウンした男二人が受付の前に突っ立っている姿は、端から見れば西部劇の決闘のように見えたであろう。しかし、俺は銃を抜く事は出来ない。なぜなら、格好だけが風俗店勤務のなんちゃって「雇われ店長」だからだ。
「・・・。いや、全然同業者じゃないです。ただのお客です。本当に。」
すべてを理解し、腰に下げたガンラックを地面に落として丸腰になった。犬ならばシッポを完全に腹につけているような状態であろう。蟻と蟻とが道で出くわすと、お互いの触覚を触れ合わせて、同じ巣の仲間かどうかを確認しあうように、兄さんはその道風に視線によって相手が何者かを見極めようとしたらしい。残念ながらこちらは100%の素人。彼も今や完全にこちらが何者であるかを理解したご様子で、
「ちぃっ、素人がややこしい格好するんじゃねぇーよ。」
と言いたげな表情でプリッと踵を返し、また店の奥へと引き返していった。
隣にいた連れは、兄さんが奥へ引っ込んだのを確認すると
「どうする??」
と問いかけてきた。うーん。正直ちょっと萎えていた所で、せっかくたどり着いたオアシスが実は蜃気楼だったような気分になっていたので、「仕切り直そうかなぁ…」などと消極的になっていたのだ。
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