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 ◆影野臣直「アングラビジネスの帝王」その7(2)


あわれ丹ちゃん留置場行き

「じゃあそろそろお開きにしてホテルでも行くか、綾乃?」
 と私はワザと丹ちゃんに聞こえるように耳打ちをした。そして飲み会がお開きとなり店を出てラブホテルの前に来ると、私は綾乃の肩を抱きホテルの入り口に入った。──もちろんそれは丹ちゃんをからかうためのポーズで、そのまま別の入り口から出てくるというありがちなおふざけだ。その上、威張り散らす丹ちゃんに腹を立てていたS、K、Nの3人がまくし立てた。
「影野さんが綾乃とホテルへ入っていったぞぉ! どぉする丹ちゃん!」
 とはやし立てられた丹ちゃんは、怒ってるんだか泣いてるんだかわからない表情でそのホテルへと駆け込んだ。
「さっきの2人はどの部屋に入った!?」
 泥酔している勢いか、ものすごい剣幕でホテルの従業員のおばちゃんに食ってかかる丹ちゃん。一見、スジ者に見える風体におばちゃんも驚き、すぐさま110番通報。交番が近くにあったせいか、すぐに警察官が飛んできた。
「何やってるんだ!」
「うるせぇ!」
 酩酊状態の丹ちゃんはお構いなしに警察官にも食ってかかる。そして官の高圧的な態度、口調に腹を立て
「バシッ!」
 と警察官を蹴っ飛ばしてしまった。待ってましたとばかりに公務執行妨害で緊急逮捕される丹ちゃん…。昔の歌舞伎町ならこの程度の酔っぱらいは相手にしないだろう。逆に2、3発小突いて説教で釈放する。現代っ子の官民はすぐ逮捕。私も心配して新宿署に駆けつけ状況を説明したが、頑なに逮捕を主張する。帰り道、昔の歌舞伎町交番での警察官とのやりとりを思い出した。
「古き良き時代。大岡裁きも遠い昔…。ああ、昔はとおくなりにけり、か」
 翌日──。留置場の面会室の向こうには情けない表情をした丹ちゃんの姿が。
「自分、何でここにいるんですかねぇ…」
 ここで一句。『おふざけも 程度が過ぎると 留置場』、字余り(笑)。
 今回ばかりは少々度が過ぎたようで…。

   




(大橋書店・ヤンナイより引用抜粋)

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