■マグロの独白(10)-2 |
しかし、僕が本物のマニアでないのは、そういう経験をしてもそのことをオカズにできない点だ。本物のマニアならもうヨダレもんで、オナニーしちゃうんだろうなと思うと、僕はいつももったいない気持ちになる。SMなど取材してもちょっといいなとは思ってもそれをオナニーにまで持っていく能力が僕には備わっていないのだ。そんなこともあって、僕はすっかりゼンタイのことなど忘れていた。
しかし、忘れたはずの全身タイツの世界にいつも引き戻すのがアリスだった。そのいきさつを書くとここでは長くなるので控えるけれど、とにかく昨年暮れから今年に入っていろんなことで彼に会った。アリスは新しく自分の全身タイツを作ったのだと僕に言った。それはペニスケースのあるゼンタイなのだそうだ。そういえば、これまで見たゼンタイというのはのっぺりとした生地のもので、たしかにペニスケースがついているのは珍しいかもしれない。ただ、それは話を聞いただけであったから、僕にはどんなものかは想像できなかったし、その力も僕にはなかった。
神田つばきとアリスの出会い
しかし、人間の縁というものは不思議なものだ。神田つばきというSM関係の雑誌に原稿を書いているライターと知り合ったのだが、話しているうちにゼンタイにとても興味を持っているらしいことがわかった。そこで、僕は自分の仕事場で彼女とアリスを会わせることにしたのだ。
それが今年3月のことだった。その日、アリスは全身タイツを何着か持ってきていたのだが、それを神田つばき嬢が着用。とたんに電流が走ったように神田つばきは欲情してしまったのだ。しかも、アリスは初めて人に見せたというペニスケースつきの全身タイツである。あろうことか2人が絡みだしてしまったのである。
眼前の2つのゼンタイがからみ合っている姿は最初こそ新鮮だったが、そのうち僕は飽きてきた。なんせ抱き合ったままの状態で小一時間過ごしているのだ。ゼンタイの下は全裸なのだが、2人の間には2枚の布がある。普通の着衣ならば下着の下に指をすべらせて、生身の部分にふれることもできるだろうが、ゼンタイではそういうことは不可能だ。