「えっ、行ってもいいけど」
(やけに簡単に乗ってくるな)
「それで、お願いがあるんだけど」
(きたきた、お願いだよー)
「何?」
「そのお、割り切った付き合いがしたいと思っているの」
(援助交際かい?)
「少し援助してくれると助かるんだけどな」
「君、歳はいつく?」
「33歳、うそはついてません。あたし、うそつくの嫌いだから」
「出してもいいけど、会ってないと、お互いに不安でしょ。見ず知らずの男と女が。だから、お互いに気に入ったらそうすることでいいかな?」
「いいわ」
「1万5000円なら出せるけど、ホテル代も払わなくてはいけないから」
「いいわ」
こうして西川口駅に女が着いたら、再びテレクラに電話してくるという交渉がまとまった。もし、女が電話をかけてこなかったら、それはそれでいい。
わざわざ会いに行ってスッポかされるよりましだ。俺の脳裏にはどんな女なのかは想像出来なかった。ただ声の感じだと若いが、何やらせっぱつまった声が蘇る。
この来るのか、来ないのかのドキドキした緊張感がテレクラのだいご味である。
そして15分後に再び電話が鳴った。
「さきほどの方からです」とフロント。
「もしもし…」
「あたしよ、今、駅に着いたから。ねっ、うそはつかないでしよ」
「わかった。今からすぐ出るよ。で、どんな格好しているの?」
「黒のパーカーに白のジーンズ。手にバッグを持っている。あなたは?」
「茶のブレザーを着ているよ。すぐ分るから」
そんなやりとりが続いて、すぐに個室を出た。
テレクラを出る前にフロントでこう訊ねた。
「ここのホテル街はどの辺にあるの?」
「駅の線路づたいに何軒かありますよ。戻っては来ますか? それとも。そのまま外出ということで?」
「そのまま外出です。戻ってはきません」
そうフロントに言うと早足で駅に向かった。約束した場所は大手都市銀行の隣の本屋の前だ。楽しみだ。どんな女が待っているのか。
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