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 ◆影野臣直「アングラビジネスの帝王」その3・特別編(2)

 周囲の飲食店からも水商売の女性や客たちが一報を聞いて見物に出てくる。店で飲んでいるよりもこのイベントが優先されるらしい。区役所通りは歩行者天国状態となった。 

 野次馬たちは勝手なもので『拳銃の発射音を聞いた』というサラリーマンが自慢げに見ず知らずの野次馬に早口でまくし立てている。オレは立ち止まって傍らで聞き耳を立てた。野次馬根性ではなく、歌舞伎町の住人としては一刻も早く正確な情報を仲間たちに知らせてあげたいのだ。ふと気づけばT氏がいない。周囲を見渡しながら騒動の中心に目をやると、彼は野次馬の最前線にいた。しかも警官隊がビル内に入れないよう壁を作っているのに、その壁の反対側、つまりビルの内側にまわりこんで平気でカメラのフラッシュを焚いている。いつの間に入りこんだのか、本当にやることに抜け目のない男である。


増加し続ける外国人犯罪、そして友人のヤクザが…
 手入れを受けた外人売春クラブの従業員らしき男が、警官数人を相手に抗議している。『証拠があるんなら出してみんかい!』と大声で食ってかかる。間違いなく時間稼ぎだろう。客を取って戻ってくるであろう外国売春婦たちに『ウチの店だぞ。戻ってくるな』と精一杯のパフォーマンスを披露しているのだ。数年前に摘発を受けたときのオレもそうだったなぁと親近感を覚えながら様子を伺っていた。

 T氏はというと大胆にもその隣にいて、聞き耳を立てながらなぜか頷いている。オレのいる人垣から少し離れて様子をうかがってヒソヒソと話しこんでいるのは、現場近くの外人クラブ関係者。皆、携帯電話片手に真剣な目つきで情報収集に余念がない。酔客や野次馬から完全に浮いているのが見て取れる。彼らこそまさに『ウラ宿系』なのだ。

 やがて報道のテレビカメラがやってきた。彼らは脚立持参でライトを焚き撮影開始。『ただいま歌舞伎町で一斉摘発です!』とレポーターが叫ぶ。その絶好アングルを押さえられたと判断したのか、またしてもT氏は騒動の中心点から消えていた。手入れ先の従業員は関西弁でまくし立てなかなか引き下がらない。警官隊はいい返すことなく無言で彼を取り囲んで威圧する。毎度の常套手段だ。

「影野さん、今度は『C』ビル裏だって」

 聞きなれた声に振り返ると、いつの間にかT氏はオレの傍らに居た。どうやって出てきたのか、いや、その前にどうやって入ったのか。彼は笑顔でビルの右奥を指差した。騒動の正面入り口とは逆側に裏口が見えた。

「裏口がこのビルにはあるんですよ。この手のビルは建築法や消防法で外階段と内階段があるので、まず外階段で2階に上がり内階段で1階に下りる。手入れの店のあるフロアは閉鎖されて入れなかったですから、エントランスの後ろからまわりこみました」。

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