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  テレクラ放浪記(1)-2 Date: 2003-04-07 (Mon) 
 ここからすぐの距離にあるビルの8階である。初めて入るフーゾク店の時と同じで、入って怪しげな雰囲気だったら即出ればいい。

 そのテレホンクラブは西武デパート前の路地を少し入った角にあるビルにあった。ドアに貼ってある安っぽいプラスチックの看板はさびれたサラ金のようで、入るのに躊躇した。ちょうど客らしい男が出てきたので、ドア越しに中を覗くと巨大な熱帯魚のプールが見えた。特に変なしかけはないらしい。

 入ると「いらっしゃいませ」と声がした。部屋は静かだ。入って左側に受け付けがあり、若い男がまごついている私を見て、「初めてですか」と聞いた。茶パツロンゲの当時私が一番嫌いなタイプだった。会員制でとりあえず入会しなければいけないらしい。
「身分証はお持ちですか?」と聞かれた。退職後も肝臓の薬をもらうため期間を延長した健康保険証のコピーは持っていたが、わけのわからない場所で身分証を見せろというのもおかしい。

 いったんは出ようとしたが、その男は「ちょっとお待ち下さい」といって受付の下にあった電話交換機のヘッドホンを耳につけると「こんにちは。きょうは初めてですか?。何歳くらいの男性がご希望ですか」といっている。どうも女性から電話が入ったらしい。そのあと「じゃあ◯番の人に繋げるね」といって彼はダイヤルを押した。すると近くの個室の電話が鳴り、彼は個室の男と話してヘッドホンを戻した。個室では「もしもし」と男の声がした。

 なにかおもしろそうだ。私の顔を見て「お名前を確認できるもの、持っていますか」という。年金手帳を見せると「例外ですけど、いいですよ」という。そのあと、なんとなく入会申込書に書くハメになった。職業欄があったので「失業中だけど」というと若い男は笑って「なんでもいいですよ」という。会社員の項目に丸印をつけた。

 15坪ほどの部屋には合板で仕切られた10ほどの個室が並んでいる。そこに入って女性からの電話を待つのだ、ということだけはわかった。会員証を渡してくれた若いスタッフの男はテレクラのシステムを教えてくれた。

 街頭で配られたティッシュやレディスコミックの宣伝を見た素人の女性がフリーダイヤルでかけてきて、その女性の希望する年代の客に電話をつなぐ。「毎日池袋で1万枚のティシュをまいています。電話はすぐきますから」と自慢しているが、そのことにどんな意味があるのかもわからなかった。入会金と個室使用料2時間で7千円払ってあと、畳2枚ほどの個室へ案内された。

 室内は薄暗く、使い古しの回転椅子の前にはベニアで作られたテーブルがあり、手垢で汚れた電話機が1台とステンレスの灰皿、それに何のためにあるのかティッシュボックスがひとつあった。なにか秘密っぽい遊びをしているようでときめいた。初めてソープランド(私の初体験時はトルコ風呂と呼ばれていた)へ行って待合室に座った時のように。前面の壁には「アポ必勝5カ条」と書かれたチラシみたいな紙切れが張ってある。

「未青年(ママ)とつながったら切ること。約束したら必ず行くこと。」などである。ということは女性と話して「会う」ことがここへ来る客の目的らしいことはわかった。性的なイメージが初めて感じられた。

 私は店内にあった自販機で買った缶コーヒーを飲みながらタバコをふかしていた。隣の部屋から若い男の声が聞こえる。さっき、女性からの電話を受付けの男が繋げた部屋だ。

「よろしかったら、お会いしませんか。おひまでしたら」と通話相手の女性と会う約束をとろうと努力している。やけに丁寧な言葉づかいだ。

 5分もしたころだろうか。私の個室の電話がビービーと大きな音をして鳴った。取りあげると「40代希望ですのでお話下さい」とさきほどの店員の声がする。「ピッピッ」と音がして女性の声にかわった。

 とりあえず「もしもし、こんにちは」と挨拶した。
相手の女も「こんにちは、よろしく」と返してきた。

このあと特になにを話したかは覚えていないほど私は緊張していた。
失業中であること以外、今日初めてここへ来たこと、名前、年齢、住んでいる所、趣味、すべて真実を言った。私は相手の質問に「今日は振替休日で買い物帰りにちょっと寄ってみた」と、とっさに嘘をいった。
彼女は品川に住む31歳の人妻であることがわかった。標準語をしゃべる女としかいいようがない。少したってクミコと名乗った女はこう聞いてきた。

「今日のご予定は?」。
「特になにもありませんけど」と正直に答えた。

 この女性を食事に誘ってみようか、と思いついたのはこの会話がきっかけだった。彼女の居住地と池袋の間で食事できそうな街。私が渋谷で落ち合う提案をすると「お食事だけでよかったら。でも用意があるので」といって午後1時に会うことになった。

 個室を出て彼女との会話の経緯をスタッフにいうと「ホントですか、ラッキーですね。がんばってください」という。何をがんばれというのか、言ってる意味がわからなかった。この女性を口説けというのか。しかし、会ったこともない女で、しかも人妻だ。その当時はまだ不倫は今ほどブームにはなっていなかった頃だ。そんなことより、今はどこで食事をするかが問題だ。

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