■ テレクラ放浪記(2)-2 | Date: 2003-04-17 (Thu) |
私は彼女のいうとおり、5分後にそこへ行くことにした。きっと可愛い女の子に違いない。お茶を飲んだあとはどうするか。カラオケは不得手だがなんだか楽しそうだ。テレクラを出るとき、店員には女子高生と会うことは言わなかった。
指定場所の公衆電話あたりには、それらしき女の子はいない。服装をきくのを忘れていたが、紺色かグレイのジャケットに違いない。私の服装はいってある。むこうから声をかけてくるはずだと思い、そこにいた。女子高生とカラオケ。きっとミニスカートで白いソックスだ。そして仲良くデュエット。と思うと久美子のことは一瞬忘れていた。20分ほど待ったが女子高生は現れなかった。
テレクラへ戻って私あてに電話があったか聞いた。それには答えず店員はいった。「延長が入っていますが、1時間コースなので再入室ですと料金をいただきます」。そんなようなことは聞いていたが忘れていた。通常、1時間コースは一度外出すると再入室は不可。2時間以上の長時間コースでは時間内であれば何回でも再入室が可能であることを店員はゆっくり説明してくれた。金になることだけは丁寧に教えてくれる態度が不愉快だった
。すでに6千円払っている私はあきらめた。
池袋駅まで歩く途中、何度もテレクラに戻ってみようかと考えた。が、また3千円払って入室したたとしても久美子と繋がる保証はない。そうすると9千円がパーになる。おととい久美子と会ってセックスした時は、テレクラ代、食事代、ホテル代、プレゼント代で合計1万8千円くらいだった。が、今日は何もなしで6千円。それも電話を突然切られたり、会う約束を反故にされたりでさんざんだ。その差は大きい。なんともやるせない気持ちで帰りの電車にのった。
その夜は寝つかれず夜中にウィスキーを飲んでどうにか寝られた。
その日以後1週間ほどは自宅でのんびりしていた。とりあえず、失業保険金をもらうまでは内緒のアルバイトでもして過ごし、その後は保険金で適当にブラブラしながら再就職先を探すつもりだった。久美子とのことは〈事故〉と考えることにした。落ちついて考えれば、育ちのいい美人の人妻が、知り合ったばかりの中年男を好きになるわけがない。私もどうかしていたな、と思うとケジメがついてきた。
久美子と会って2週間ほどたったゴールデンウィーク前のある日。午後1時ころ、私は所用が終わった足で池袋三越の裏側にある道を歩いていた。ふと雑居ビルの入り口にテレクラの看板があった。前に行った店とは違う店名だ。テレクラは池袋に1軒だけと思っていた私は気になった。ピンクの看板がアヤしい雰囲気で私を誘ったが、2度と行くことはあるまいと決めていたので通りすぎた。が、やはり何かひっかかる。私は戻ってそのビルのエレベータにのった。
またして「身分証はお持ちですか?」と店員に聞かれた。その時はなにも持っていなかった。私は前に行ったテレクラの会員証を財布に入れてあったことを思い出し「これっきりないんだけど」とそれを見せた。ちょっと歳のいった管理職クラスとでもいおうか、その店員は「今回はこれでいいですから、次回には証明するものをお持ち下さい」と丁寧に応対してくれて、同じように入会申込書に書くとピンクの会員カードを渡してくれた。
女性の希望する年代の男性につなげるシステムは、あのテレクラと同じだ。私は外出可の2時間コースを躊躇なく選んだ。個室の半分ほどは黒いビニール製のベッドで、脇には小さなテーブルに電話機。壁紙は北米らしい山岳の風景写真で、あのテレクラとはまったく違う明るい雰囲気だった。案内してくれた店員は「もと、ファッションヘルスなので」と説明してくれた。
女性からの電話を待つ目的だけで、昼間からビルの一室で男がタバコをふかしている姿は自分ながら滑稽な場面だと思った。換気扇の音が騒がしい。テレビをつけても見る番組はない。アダルトビデオの貸し出しもあるということだったが、今の気分にはなじまない。他にすることがないので、受付にあったフーゾク情報新聞を持ってきて読んでいた。
なかほどのページに、ファッションヘルスなどのサービス嬢の写真に混じってテレクラの案内広告があった。それによると池袋など都内にはテレクラがたくさんあることがわかった。これは大きな発見だった。それだけ需要があるからこそテレクラは存在する。ということは女性側にも需要があるということだ。
「アポ率100パーセント」「人妻イレ喰い」「絶対やれる店」など煽情的なキャッチフレーズが並ぶ。やはりテレクラは女性と会うだけでなく、その場でセックスをするのが目的でつくられたのだ。世間から隠れたような店の雰囲気といい、性的なイメージを感じさせる店員の言葉といい、どこか釈然としないものがあったが、これで解けた。あらため
て、これはすごいシステムだと感じると、胸騒ぎがした。
ほどなくして電話が鳴った。「年配の男性を希望です」と店員がいったあと、女性の声が聞こえた。相手の女性は33歳の主婦で、大宮の先に住んでいるらしい。そんな遠くから電話がくるとは思っていなかったので「ずいぶん遠くからですね」と話した。
が適当な自己紹介や世間話が終わったころ、その女性は「これから池袋に買い物に行く予定ですけど、お会いできますか?」と遠慮がちにいった。私は、買い物の休憩がてらお茶でも一緒に飲むつもりなのかと思い約束をとった。いくらなんでもフーゾク新聞にあるように会ってすぐホテルではないだろう。しかし久美子の前例がある。どちらにころぶか判らないが、会ってからその場の雰囲気にまかせよう。忘れずに相手の女性の名前と服装と待ち合わせの場所を確認した。
それから1時間ほどは何人かの女性と話したが、世間話が終わったころ「ではまた」などといって終わっていた。内線で受付から「◯◯さんから、池袋に着きましたと伝言がありました」と連絡があった。店を出るとき「おめでとうございます。がんばって下さい」とまえと同じようなことをいわれた。「いや、お茶飲むだけらしいですよ」とことさら何気なく答えたが、期待感で私の声はこころなし上がり調子だった。