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  テレクラ放浪記(6)-2 Date: 2003-06-25 (Wed) 
1 ストーカー女・アキコ

末森ケン  都下にあるテレクラのツーショットでアキコと繋がったのはお昼まえころだったか。お互いの自己紹介が終わり、いつものように「今日はどうしたの?」と女に聞いた。

「ちょっとヒマだったから」と殆どの女がいうセリフがかえってくる。あまり気がのらないような口調だ。ふとその女の背後でビートルズの曲が流れているのが聞こえた。
今時ビートルズとは。曲名は忘れたが、たしか初期のものでロックンロール風の早いテンポだ。
「喫茶店なの?」と聞くと「自宅よ」と返事があった。

 その後はビートルズの話題で30分ほど話したろうか。私は、30数年前にビートルズが来日したとき、武道館で行われたコンサートを見に行ったことを話した。

「イエスタデイを聞いた時は泣いちゃったね」というと「エエッ、ほんとなの」と驚いている。

 もちろんそれは嘘でテレビで見ていただけだ。この女は興奮したようで、ぜひ、そのときのことを聞きたいとしつこくせまってきた。「ただじゃあねえ」と思わせぶりに私はいった。

「エッチならいいわよ。私も嫌いじゃないから」。

 エッチ話にアポはなし、というのがテレクラの常識だ。それは私もイヤというほど体験していた。
当日のアポはやめて、私の自宅の電話番号を教えたにととどめた。
最後に「そのうちに家へ来て。お好きなバーボンとピザを用意しているから。
一緒にお風呂にはいりましょうね。絶対寝かさないないからためておいてね」と女はいった。

 それ以後、アキコからは頻繁に電話があった。

 絶対ヤレる女と思い丁重に対応した。が、話題はいつもビートルズだった。彼女は彼らのほとんどの曲を知っていた。それはいいとして、私が「いつそちらへ行ったらいいの」といっても「おばあちゃんが来ているから」「犬が病気だから」「生理が終わったら」といっていつも言葉をにごした。

 それは一ヵ月ほど続いた。
 さすがにおかしいと気づいたのは深夜にかかってきた時だった。

 いつものように電話にでると、ビートルズの曲が聞こえる。そのあと「この曲知ってる?」と女の声。この一ヵ月変わらないパターンだ。そして延々と彼らの話。私は「疲れているからごめんね」といって電話を切った。だが、そのあとも切っても切っても電話が鳴る。私はコードを外した。その後2週間ほど電話はなく、正直ホッとしていた。

 だが、ある時から又かかり始めた。
 もうこの女はどうでもよかった。テレクラへ行けば3回のうち1回は若い女と会えセックスできた。その場限りではあっても一瞬のセックスは刺激的で、なんで35のバツイチ女に気をとられたのか自分でもわからなかった。

「もうお話することもないし。電話しないで」といっていつも勝手に電話を切った。

 いやがらせ電話が始まった。
「バカあ」「嫌いになったら死んじゃうから」彼女の声だった。私は短気だ。
「うるさいババア。死にたいならそうしろ」といっても切ろうとしない。さらにそれは無言電話になった。

 私の家は一本の電話回線きりないので、電話に出ないわけにはいかない。
現在の、発信元を特定すればそこからの電話は受け付けないシステムに似た〈迷惑電話お断りサヒービス〉というシステムをNTTから聞いていたが、これとて万全なガードシステムではなかった。

 ある時、珍しく普通の声で彼女から電話があった。
 私は落ちついて「お互い大人なんだからやめようよ」といってたしなめた。
「私って気分がおかしくなる時があるの。鬱の時は自分でもわからない」といって時々精神病院に通っていることを白状した。
しかも入院していたこともあり、それも数回だという。そしてその病院の名前や担当のカウンセラーの名前もいった。私はそれをメモした。

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