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  テレクラ放浪記(6)-4 Date: 2003-06-25 (Wed) 
2、ノイローゼ女・広江
風俗体験取材 末森ケン

 二人目の女、広江とは都下にあるテレクラで電話で繋がった。

「ちょっとした病気で入院していて、たいくつだから電話した」という。
「病院から電話してるの?」と質問すると「町にでてきたから」と答えた。

特に話が合ったわけではなかったが「私って男運が悪くていつも振られてしまうの。退院したらお参りに行こうと思って。一緒に行ってくれる?」と静かな声でしゃべった。
気軽な気持ちで「いいよ」と答えると「行ってくれたらお礼にエッチたくさんしてあげる」と笑った。
むろん冗談半分に聞き流していたが、その後の話に私は同情した。

 彼女が入院している病院は人里離れた場所らしく、スーパーはおろかコンビニさえないという。スナック好きな彼女は家族に頼んで差し入れをしてもらうのだが、同じ病棟の女性患者の手前、独り占めするわけにいかず分配するらしい。それは一日ともたず、いつもイライラしていると不満をいった。

「お願い、なんでもいいからお菓子を送って。それに寒いのでカーディガンもあったら」と勝手に要求してきた。菓子くらいならたやすいことだ。それに女の衣類だったらフリーマーケットで調達すればいい。私は送り先を聞いた。

 彼女が教えた病院は、ストーカーに変貌したあのアキコが入院していた病院だった。
病名を聞いてみると広江は「軽いノイローゼ」だという。間違いない。私は彼女あてに要求されたものを送る約束をした。
 理由はふたつあった。

 最初の女患者アキコの件をある編集者に話すと、そういう女と会えるチャンスはテレクラしかない。体験記を書けばきっと注目されるよ、といわれたこと。そして今話している広江は25歳と若くアキコと比べれば内容は濃いセックスになるのではないか、と欲望が生まれたこと。そして広江の口ぶりは落ちついていてヘンなことをしそうにもなかったことが私をそうさせた。
その時分は携帯を持っておらず自宅の番号を教えた。
私はスーパーで買ったチョコレートやらスナック菓子とフリーマーケットで手に入れた毛糸のカーディガンをダンボールに詰め込み宅急便で送った。

 しばらくたって広江から礼状とともに彼女のスナップ写真が送られてきた。

 細おもてでこれといった特徴はないが人なつっこい笑顔は私を欲情させた。そのあとすぐ一時帰宅していた彼女から電話があり興味深い話を聞けた。

 その病院ではテレクラに電話することが流行っているというのだ。私にはその意味がつかめなかった。

 広江の話によると、ある女性患者のところに毎日のように宅急便が届き、そこには菓子類や日常必要な雑貨、寝巻から下着まで入っていて、それらを女性患者に配る彼女はいつのまにかその病棟の主のようになってしまい、物を貰った女性たちはその女の洗濯やら身の回りの世話を順番でするようになっているというのだ。

 その〈ぬし〉にあこがれた広江は彼女の秘密を聞こうとする。

 それを教える条件で彼女からレズを迫られた広江は、空いていた病室でその女と裸になってお互いを慰めたそうだ。その女が教えてくれた番号に電話すると男がでて、色々な話を聞いてくれるだけでなくエッチな話をしてから「退院したら会おうよ」とでもいって品物を送ってくれと頼むとおもしろいように送ってくれるようになり、いつしか女性患者に広まって、病院内の公衆電話には朝からテレクラに電話する女性患者が並ぶようになったらしい。

 それは職員に知られたが禁止するわけにもいかず、一人5分に限られたが、守る女は少なく時々トラブルがあるという。そこで広江は週に1回ある外出日に公衆電話でかけることにした。アキコと違って話もしっかりと順序だてていうところから、軽いノイローゼは本当だろう。
よし、この女をモノにして話のタネにしてやろうと、私は一回3千円くらいの物を詰めて3回送った。そのたびに広江から電話があり「退院したら温泉にでも連れてって」という女の言葉を信じた。

 私あてに親展で○○信用保証という会社から書状が届いた。

風俗体験取材 末森ケン どうせ何かのDMだろうと思い開けてみると金銭消費貸借契約書、いわゆるサラ金の契約書が入っており、肝心の借主の欄には名前がなく、保証人の欄に私の名前が記入されていた。さらに私の住民票や納税証明書を添付し、印鑑を押して返送するよう添え書きもあった。死亡保険金額の記入されていない団体生命保険の申込書まであった。まったく心当たりのない私は差出人である都下にある会社に電話をした。

 担当者の女は事務的な声で「○○ヒロエさんから聞いていると思いますが」といって広江が消費者金融会社に私を保証人にたて30万円の借金を申し込んだという。そして書類が届けば3日以内に広江に融資しますとつけ加えた。私はこの契約については知らないので無効にしてほしいといった。
その女は「○○さんの内縁のご主人と聞いていますが」といった。
「これは何かの詐欺です。これ以上話を進めるとおたくの会社にも迷惑がかかりますよ」というと「わかりました。処理します」とだけいって話は終わった。
念のため葉書に同じようなことを書き、公証役場で日付確定印を押してもらい投函した。

 翌々日、広江から電話があった。
「どうして断ったの。退院したらキレイなお洋服買って一緒に旅行したいの。だめならお金ちょうだい」。

 会ったこともないのに当然のような口ぶりで話す広江に私はムカついた。
「もうこれっきりにしよう。そんな気はないから」といって電話を切った。
幸いにこれ以上の実害はなかった。

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