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テレクラ放浪記(6)-7 |
Date: 2003-06-25 (Wed) |
4、盲目の女・サチコ
テレクラがNTTの電話帳に載っていた時期がある。
たしかコミュニケーションクラブというような表現だったと記憶している。サチコはハローダイヤルに電話をして、知らない人でもいいので、誰かとお話できるころがないか、と聞いたところ、このテレクラを教えてもらったという。そこは渋谷にあるテレクラで、ある日の午後彼女と繋がった。
彼女は物静かな口調で、いってもいないのに自分のことをしゃべった。
だいたいテレクラにかけてくる女はおしゃべりだ。だか、彼女は饒舌ながらも落ちついてた声で、私の耳には気持ち良く響いた。
「サチコって呼んでいいのよ」と話始めた女は33歳で夫と死別。住まいは成城の奥。
「体が弱くて、あまり外出したことがないの。お話だけでよかったらといった。
ふつう成城や田園調布あるいは代官山など、高級住宅街に住んでいるという女の話はえてして嘘である場合が多い。
たとえば、「バス停の前にあるパン屋のクロワッサンはうまいよね」と、ありもしないことを聞いても「うん、おいしい」などという女もその口だ。
今は肩が弱くなって荷物は軽くしているが、当時テレクラへ行く時は待ち合わせの場所の確認の意味もあって東京の区分地図帳を持ち歩いていた。
その世田谷区のページを見ながら「千歳小学校の近くかな」というと「あまり詳しくないから」と答えた。
ふつうだったらそれ以上つっこんでいじわるするのだが、声の可愛らしさから敢えてそれはやめて話を続けた。話ている途中、彼女に来客があったらしく「よかったらご自宅の電話番号を教えてくれます?」といわれ素直に教えてから電話を丁寧に切った。
テレクラ用語に〈ブーメラン〉という言葉があり、それは〈即アポ〉と対をなす意味がある。つまり相手に自分の連絡先を教えておいて後日女からの電話を待つ、という悠長な仕掛で、選ぶのは女、選ばれるのは男という、まさに現代の男女関係を象徴するようなやり方だ。
当然私のように男としての条件が悪い〈物件〉に電話がかかってくる率は悪く、電話があるのは10本に一本あればいいほうで、しかも話が中心でアポが取れない経験から、その手の女とはその場限りの電話で終わっていた。女は男と違って無料だから時間があれば何人、何百人とでも話せるので、条件のいい相手を探すことができる。
私の〈条件〉は年齢、外観ともに最悪である。しかも車どころか免許さえない。
それを隠してもいずれバレるので正直にいう。それがブーメラン率が悪い理由だと推測した。
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