■ テレクラ放浪記(6)-8 | Date: 2003-06-25 (Wed) |
サチコからの連絡は期待していなかったが、当日の深夜に電話があった。
「今日はごめんなさい。修理に出していたお琴が届いたので」といった。
そのあと、またもや静かな口調で自分の生い立ちを話し始めた。
「北海道生まれで父は幼いころ他界。20歳の時結婚、25歳で離婚。子供もなく世間体もあるので父の財産を整理し叔父を頼って母と上京。父の遺産と慰謝料を元手に小料理屋を開業。居候のような生活。趣味はお琴」。
よほど話に飢えていたのか私の話はほとんど聞きもせず、約1時間にわたって話しつづけた。
離婚の原因については「お互いに子供だったから」とだけいっていた。
初めて彼女が私に質問した。「独身でしたよね。あちらのほうはどうしていらっしゃるの?」。
私が独身だというと、半数ほどの女はこう聞く。テレクラを始めた当時は「よかったら相手になってあげてもいいのよ」とでもいいたいのかと勝手に都合よく解釈し「寂しいですよ。よかったらお会いしませんか?」とか誘ってガチャ切りされていた。会った女にこの言葉を質問した意味を聞いてみると、特に性的な意味はなく、ただ女との交遊関係をなんとなく聞いてみたかった、という意見が多かった。
後になって、性的な会話を仕掛けられてもはぐらかしておいたほうがうまくゆくことを、この道の大先輩に教わった。だが、いざ性的な質問をされると興奮するせいか「そういうあなたはどうなの?」といって失敗した。
彼女にも同じ質問をしてしまった。
深夜のせいか彼女は「男の人は外でできるけど、女はそうはいかないわ。恥ずかしいけど、母が寝たあとで、つい、ね」と答えた。しばらく沈黙が続いた。
「ヘンな話されたから、おかしい気分になっちゃった。それじゃあ」といって電話は切れた。
話が始まったとたんに電話で架空のエッチをする〈テレセ〉でなく、真実味のある会話からか、私は興奮して、彼女が横になって自分の性器を触りながら悶える姿態を想像した。そして私と会う場面まで。
お琴が趣味ならぜったい和服が似合わなければならない。当然小柄で細身で、襟元の肌は白く、おくれ毛は色っぽくなくてはならない。芯は強いが男には逆らわない。
私は演歌カラオケのモニターに登場するような和風美女を勝手に想像した。
小雨降るなか渋谷円山町あたりを相合い傘。ふと目が合い和風旅館へ。長襦袢になった女は「私にさせて下さい」とフェラチオされる私。もうたまらない。オナニーした。
それから週に2度ほどは彼女から電話があり、たわいのない世間話のあとはきまってエッチな話題になった。私が誘ってテレセをした時は「あなたのお部屋って和室でしょう?。それにベッドに寝ているわよね」と終わったあと指摘された。
「音が響いていないし、スプリングのきしむ音も聞こえたから」という。どうやら耳が敏感のようで「今度会ったら、耳を舐めてあげる」といって送話口に息をかけると「もうだめえ、許して」と叫んだ。
1ヵ月ほどして彼女からデートの誘いをうけた。渋谷にある美術館に行きたいという。そこでは展示してある彫刻などに触れてもいいそうで、ぜひ体験したいとせがまれた。
気持ちのうえでは既に肉体関係がある女だ。
「サチコさんのカラダにも触っていい?」というと「やだぁ、感じちゃうじゃない」と笑った。もう決まった。
会うときは和服を希望したが、寒いから毛皮のオーバーコートで、といった。そうか、和服では着付けが大変だ。
この女はその気でいる。私はデートの2日前からオナニーを止めた。
渋谷のT百貨店本店の前、私は約束の午後1時ぴったり、そこに立って待った。
と、タクシーから女が降りた。サチコは想像どおり細身で小柄な女だった。が、顔には濃いグリーンのサングラス。手には白い杖。私は一瞬間違えたかと思った。
しかし、目印の茶色のファーコートにグレイのツィードのバッグ。それに黄色のスカーフはいったとおりだ。
そのとき「目が弱いので声をかけてください」といわれた意味がわかった。私は動転していた。
声をかけようか、しまいか悩んだ。そして百貨店を一周した。性欲には勝てない。決心がついて、私は声をかけた。
「びっくりしたあ、こんな女で」といって顔を私に向けた。
「でも、あなたってきっと来るって思ってたわよ」。彫りの深い顔だちだ。
とりあえず喫茶店に誘うと、私の手に彼女の手がふれ、それが自然のように腕を組んで歩いた。その手をどけたかったが、それも道徳的に気がひける。通行人があからさまに私を見るのがわかった。
彼女とどういう話をすればいいのだろう。それも気になった。サチコはだまったままだった。
喫茶店で座ったサチコはまた「ごめんなさい。お帰りになってもいいのよ」と謝った。
ここまできてはどうでもいい。私の頭は気落ちと期待が交互にめぐっていた。
ブスブタババアよりましだ。それに私のハゲ頭やでかい腹も見えない。そう思うとかえって安心できた。
質問するでもなく彼女は失明の経緯を話した。
「お顔を見せて?」というとサングラスをとった。予想より整った顔だちだ。これで完全だったら、お世辞でいう美人の部類に入る。私は少し欲情した。
サチコは33歳。幼いころから目が弱く、それでも構わないといってくれた男と結婚したが、結局は目のことが原因で別れる。失明は離婚が原因らしい。
そういえば今までに彼女は自分の日常生活のことはあまり話さなかった。
美術館への途中では他人の目は気にしなくなっていた。
それよりどうやって誘うかが問題だ。日常セックスしているとは思われない。手取り足取りセックスするのは未経験だ。なるようになれ。
私は彼女と体をつけながら美術館をめぐった。コートの上からサチコの乳房を感じた。サチコの手は敏感でその彫刻がどのような作品か当てた。
「ひさしぶりに歩いたので疲れた」というサチコは外へ出たいようだった。時間は午後3時を過ぎている。「仲良くなりたい」と誘うつもりだった。だが、それをいう前に「遅くなるって母に言ってきたから」とサチコが顔を近づけてきた。
女からそれとなく誘われる。最初の女、久美子と同じパターンだ。
誘ったからには何をされても文句はいわないはずだ。私はどんなセックスになるのかと思うと興奮が高まった。
サチコはホテルの部屋に入るや、ベッドやトイレの位置を歩いて確認している。
コートを脱がせた時私は口づけをした。さらに続けるとサチコは口を開き舌をだした。それを吸うと彼女は力が抜けたのかしゃがんだ。