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  テレクラ放浪記(9)-6 Date: 2004-01-06 (Tue) 
末森ケン§2・大阪取材記

 二人目の妊娠女は福岡県の博多で会った。

 といってもわざわざ博多のテレクラまで行く金はない。それは週刊誌Pから依頼された取材の〈ついで〉で会った。
数人のライターが全国の主要都市を巡り、各人の方法でその土地の人妻を取材して実態に迫ろう、という企画で、首都圏の日帰り取材以外したことのない私にとってはかなり大がかりな仕事だった。
「全国縦断人妻調査」のうち私には大阪と博多が担当として割り当てられた。期間は一週間。
私は全く地方のテレクラ事情を知らず不安だったが、すでに私の行くべきテレクラは指定されていた。それに交通費や宿泊費、その他の実費もその編集部負担で取材費の仮払いまで用意されていた。

 気がついてみれば、それまでの大部分の取材はテレクラ代を除いて、ラブホテル代、女との食事代や酒代は自己負担していた。
末森ケン 原稿料の合計からテレクラ女に費やした合計を差し引くと残った金は年間にして百万円程度だった。原稿料といっても契約書があるわけでもないので、金額については入金されるまでわからない有り様だった。
例え金額が確定していても、出版社によっては振込料を差し引かれていたり、消費税が加算されていたり、手取り金額はバラバラだった。例えば同じ3万円でもT社は支払い額は3万3333円。それから源泉徴収を3千333円引かれて振込料は振込人負担なので、手取り3万ピタリ。A社の場合は支払い額3万で、源泉徴収3千円と電信振込料630円が引かれ、手取りは2万6370円になる。T社とA社の差額は3千630円。居酒屋で一杯できる金だ。
私の場合はペーペーのライターだからいいが、名のある人だったら〈被害額〉は莫大な金額になる。
さらに振込日についても同様で、ある年末、T社からきた原稿料支払い通知書には12月31日振込、と記入してあった。
あまりの非常識さに腹がたって、雑談でそのことをこぼすと、あるライターは「百円ライター以下ですよ、私達」といっていた。

末森ケン  それらとは違い、さすがに一流出版社は大したものだと感心した。その反面〈成果〉がでなければ、信用はなくなる。
私は全国のテレクラを走破していたテレクラナンパの鉄人、佐伯雄二氏に相談することにした。彼は言下にこういった。
「博多はともかくとして、大阪では『東京から来た』といってはダメです。東京に対する反感がありますから」という。
「それに東京みたいにグスグスしてると切られますよ。速攻でせめるにかぎります」と教えてくれた。

 そのことを編集者に報告すると「勘違いしないでください。会えればそれにこしたことはありませんが、今回はあくまで聞き取り調査がメインですから」といわれ、女をゲットして、その体験談を書くことだけを考えていた私は恥ずかしく思った。
最終打ち合わせの時、「あなたは普段誰とSEXしていますか?」から始まって、性交頻度や、興味あるSEX、体験した不倫SEX、最高のSEX体験、など10項目にわたるアンケート調査用紙を渡された。
「あなたは有名人とHしたことがありますか?」という質問がこの週刊誌らしくて笑った。

 翌週の月曜日午後1時、私は大阪駅に着いてその足で曾根崎にあるテレクラ「C」に入った。

 その店は関西の某大手テレビ局と目と鼻の先にあった。近くにはラブホテルも数件あり、テレクラとしては好条件にみえた。
午後1時過ぎだというのに店に入ると通路の椅子には〈順番待ち〉の客とみられる7.8人の男が黙って座っていた。
店長に挨拶を兼ねて聞いてみると「これはふつうですよ。土曜日曜は外まで並びます」といっている。
こんな世界があったのだ、と私は感心してしまった。
もっと驚いたのは店員が各部屋をノックし「何番さん、時間です。延長でいいですか?」といって店内を回っていたことだ。各個室からも威勢のいい声が聞こえる。ここでは時間が早く回っているように感じた。

末森ケン  さっそく薄暗い個室に案内された。ここでは私の苦手な早取りだった。

 が東京とは違うやり方だ。受話器を外してフックを押しておいて、着信のランプが点灯するやフックをあげて一番早く取った人に繋がるのが東京式だ。
早取りの名人といわれる人の動作を見ていると、ランプが点灯するのとフックを上げるのは同時だった。
「ランプがついてからでは遅いですよ。勘ですね」と言っていた。目がいいから、という理由だけでなく何か特別の視神経や直感力をもっているように思えた。早取りの上手な客にコールが集中してしまい、ヘタな客には回ってこないので、客は自然と常連ばかりが集まってしまい、新規の客が望めない現象がおき、東京では既に消滅して取次制が主流になっていた。
女としても「いつも同じ人に繋がるからイヤ」で、それも原因のようだった。

末森ケン  早取りはそれなりの利点もあった。
テレクラに電話してくる女全員が相手の男の年齢を限定しているわけではない。年齢より話し方や性格を優先する女も少なくない。
ある東京のチェーン店では取次制とコンピュータを使ったツーショット、つまり女の希望とは関係なく部屋順に繋がる回線も併用していて評判はよかった。

 ここ曾根崎の方式は東京では禁止されている〈フック連打方式〉を採用していた。
受話器を外してフックを押すまでは同じなのだが、そのあとランプ点灯を確認してからフックを上げるのが東京式。
ランプとは関係なくフックを押したり上げたりを連続するのが大阪式。
フックを上げたとき偶然に入ってきたコールとぴたり合うと「カチッ」と音がして緑のランプがつけばコールが繋がった合図で、そのまま話せばいい。話には聞いていたが私には初めてだった。
電話機の赤ランプが10個以上点灯していて、それらがついたり消えたりしている。東京では考えられないほどの大量の女性コールが入っている証拠だった。

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