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テレクラ放浪記(9)-9 |
Date: 2004-01-06 (Tue) |
§3の1・博多取材記
昼過ぎ博多に着き、事前に連絡しておいた北九州の風俗情報誌を発行している企画会社に出向いた。
その担当者はすでに私の行くテレクラの責任者とは話をつけてあるといい、博多のフーゾク事情について説明してくれた。
中州は六本木と新宿歌舞伎町と吉原が混在したような街だった。私は本屋で市内の地図を買い、さらに教えてもらったホテル街を散策した。そこからは超巨大なショッピングモール、キャナルシティが見える。ちょっと外に出れば田舎町にちがいない。そこには〈ケ〉の生活に飽きた人妻が発情しているはずだ。ここへ来て〈ハレ〉の買物をした人妻がおとなしく帰るとは思えない、と思うとドキドキした。有名な屋台群の位置も確認し、中州の真ん中ほどにあるテレクラ「P」に行った。
そのテレクラは小ぎれいな内装で安心した。
店員の話では、客は私を含めて3人という。テレクラは人気がないのかと思った。
コールの取り方は早取りだが、大阪のようなフック連打は禁止だった。
私は早取り競争はあきらめて〈お余り〉のコールがくるのを待った。その間は市内の地図をみていた。それはすぐにきた。
ランプとブザーが何回鳴っても消えない。それは他の客が話し中でそのコールを取ることができないことを示していた。私はゆっくりと受話器を取り上げた。
その女は自称31歳の既婚者で、天神の公衆電話からだという。
「買い物帰りなので」ということは、東京だったら援助か即マンのどちらかだ。が、彼女は本当に暇だったようで「お話だけで」といった。私は大阪の時と同じように取材で来たことをいった。
「その週刊誌知ってる。主人がいつも買ってくるから」と声を大きくして女はいった。
「別の目的で電話したんだけど、おもしろそう。でも公衆電話だから話づらいわよね。会ってもいいわよ」といって自分のいる場所を教えた。
「別の目的」が何であるかは聞きもらした。
天神については全く不案内だったので博多駅で落ち合うことになった。
駅南口タクシー乗り場の横にあるポストの前にいた女は樋口可南子に似た美人だった。近づくとやや厚化粧だったが気落ちするほどではなかった。
買い物帰りは本当のようで大きな紙袋をさげていた。和風ランチのあとのティールームでは躊躇することなく私の質問に答えてくれた。
答えたあとに必ず「東京の主婦の場合はどうなんですか?」と質問されたので、私はわざと大げさに答えた。
「東京では不倫なんて別に騒ぎませんよ。アンケートやってて誘われたこともありましたよ」というと「どんなふうに?」と聞いてきたので、官能不倫小説のような作り話を、さも実話のごとく落ちついて話した。
さすがに、セックスシーンを細かく話したときは「わあ、いやだ」といいながら、口をおさえて横を向いたが、嫌がっている気配はなかった。私もそれにつられて「どうですか、私なんかは?」と思わず口走ってしまった。
「お仕事なんでしょう?」といわれて正気にもどった。
彼女は「虹の松原」という場所に住んでいるらしい。
「ロマンティックな名前ですね」というと「海沿いなので意外と寒いですよ」と答えた。
私は思い出して「さっき電話で『別の目的』といってましたけど?」と聞いてみると「そんなこと言えないでしょう」とだまった。
それは金のことなのか、それとも純粋に男を探していることなのか彼女の口調からは不明だった。
それを追求するのが取材者の仕事なのだが、このあともしかして〈思わぬ展開〉になる場合も考えて気まずくさせてはまずいと思い、それ以上聞かなかった。だが〈思わぬ展開〉もないまま話が途切れ、私は謝礼を渡し、彼女と別れた。
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